こんにちは。「南森町スマイリー歯科」「よしむらファミリー歯科」の院長を務める吉村 佳博です。
わが国も超高齢化社会となり、2025年には団塊の世代にあたるかたがたが75歳以上になるとも言われています。健康寿命も年々伸びている状況にあって、歯を失った部分の治療にインプラントを希望される高齢者も増えてきました。
しかし、治療を考えるにあたり、注意すべきことがいっぱい出てきます。今回は高齢者になってからインプラントを行うことについて、そのリスクについてそれぞれ見ていきます。
1、インプラントは治療よりも術後のメンテナンスが重要です。
インプラントになる理由として、虫歯や歯周病で歯を失って、抜歯となった方がほとんどです。そのような方は、歯種病予防としのメンテナンスを定期的に受けていたならば、インプラント治療まで至らなかったかもしれません。
インプラントは周囲の歯肉との間にガードする組織がありません。インプラント周囲にプラークなどが長期間滞留すると、炎症を起こします。その予防としてのメンテナンスは、特殊な器具とインプラントを熟知した歯科医師・歯科衛生士による清掃が必要です。
このように、インプラントを入れるまでの治療よりも、治療後のメンテナンスを定期的の受けることで、インプラント周囲炎を予防することが重要です。抜歯以前のような感覚でメンテナンスを怠っていては、インプラントが長期間もたない、という危険性があります。
2、基礎疾患により、歯肉の抵抗力が弱くなる
高齢者になると、何らかの持病、基礎疾患をお持ちの方が増えてきます。なかでも多いのは高血圧症、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病といった生活習慣病をお持ちの方で、また狭心症や心筋梗塞の既往などをお持ちの方もおられます。
こういった方のうち、糖尿病は感染症に対して弱いという危険性がありますので、インプラント周囲に炎症が起きやすく、またひとたび炎症が起きると、治癒までかなり手間と時間がかかるというデメリット、リスクがあります。
3、骨粗しょう症の薬を使用する方が増えてくる
インプラントだけでなく、歯科治療として注意が必要なのは、骨粗しょう症の予防および治療や、がんの骨転移のための治療と目的して「骨を強くする薬」の注射や飲み薬による治療を受けている方です。このジャンルの薬は多くの種類が販売されています。
これらの薬は、本来の骨を強くするという目的においてはとても素晴らしく、重要な薬です。特に太ももの骨である大腿骨が骨折すると、ほぼ寝たきり状態となってしまうため、健康寿命が格段に短くなり、結果として生命予後が急激に悪くなります。
また、がんが骨に転移していると、がん細胞が骨を溶かす細胞である「破骨細胞」を刺激して活性化し、骨をどんどん食い破っていきます。そのため骨はスカスカになって非常にもろくなったり、血中のカルシウム濃度が上がることで、意識障害が出てきます。これらを予防するためにも非常に重要なお薬です。
この破骨細胞の働きを抑える薬には、ビスフォスフォネート系薬剤や抗RANKL抗体といったジャンルの薬が多数開発されており、骨密度を維持しています。
しかし、これらの薬の副作用として、あごの骨へ広がった感染に対しては抵抗力が格段に下がり、骨髄炎が起きやすいというのが明らかになってきました。これを薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)と言います。そのMRONJが発症する割合については、何人に処方して何人に発症したかという全国的な統計データはありません。
しかしひとたび発症すると、あごの広い範囲に骨髄炎が広がります。あごの骨髄炎の基本的な対応は、骨髄炎の部分をクロルヘキシジンを含んだうがい薬でできるだけ清潔に管理することです。もし膿瘍などを形成している場合は切開が必要ですが、抗生剤を投与する場合は、どの状態で処方終了とするか、やめ時を考えておく必要があります。また全身麻酔が可能な体力がある方では、骨髄炎の部分を削り落とすことも有用です。
このように、骨粗しょう症の方にはMRONJを発症するリスクがあります。同様に、インプラントは骨から金属の棒がお口の中に貫通していますので、MRONJのリスクが高いと言えます。その点を考慮に入れると、インプラント以外の治療法をお勧めします。
4、基礎体力の低下によるトラブル
体の基本的な筋力が低下することをフレイルと言います。その中でも、お口を開け閉めする筋肉や飲み込みに関係する筋力の低下はオーラルフレイルと言います。口を開けて食事を取り入れ、しっかりよく咀しゃくし、奥へ送り込み、飲み込む、という一連の動きは、自分の意思だけではなく反射運動でも行われます。
それぞれのパートにおいて、筋力が低下して噛めない、送り込めない、飲み込めない、という状況になることがオーラルフレイルですが、インプラントはこの咀しゃくに関係する筋力が低下すると、インプラント周囲に食渣が溜まりやすくなり、炎症を引き起こすリスクが高まります。