こんにちは。「南森町スマイリー歯科」「よしむらファミリー歯科」の院長を務める吉村 佳博です。
今回の記事は、毎日みなさんが行っている歯磨きについてです。
人によって歯を磨く時間は長かったり短かったりすると思いますが、「歯を磨く時の理想的な時間帯やタイミングは?」という質問をいただきましたので、今回はその質問にお答えしていきたいと思います。
1、歯磨きの重要性
まずはじめに、歯磨きの重要性についてからご説明していきます。
日本歯科医師会の標語に「お口は命の入口、心の出口」というのがあります。歯は食べて栄養をとりこむだけなく、人と会話をする時にも非常に重要です。
そして、お口は食べ物だけでなく、様々な細菌類、ウイルス類も入ってきます。お口の中に住み着いたりするもの(口腔内常在菌)もありますが、歯周病を起こしたり、誤嚥により肺炎を引き起こす細菌類などもあります。
歯周病の原因菌は様々な疾患を引き起こし、今、関連があると言われているだけでも脳梗塞、誤嚥性肺炎、心筋梗塞、心内膜炎、動脈硬化、糖尿病、女性では早産および低体重児出産など、多数におよびます。
これらのリスクを下げるためには、歯磨きによってお口の中にいる細菌数をまず減らすことが重要視されています。
胃ろうで栄養管理されているためお口をほとんど使わない方も、呼吸によりお口の中には多数の細菌類がいるため、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)をはじめ、様々な病気の予防としての歯磨きなどの口腔ケアは必要です。
最近は1日に2~3回歯磨きする方が増えてきましたが、多忙でなかなか回数が取れない方や、時間が取れない方など、それぞれの生活様式との兼ね合いを考える必要もあります。
2、歯磨きをいつするべきか
歯磨きをいつするべきかについては、いろいろな意見があります。毎食後にしっかり磨く、寝る前が一番大切など、様々あります。
毎食後にしっかり磨くことができることは理想だと思いますが、朝の支度の時間や仕事の合間や昼休みなどでは、歯磨きの時間を確保することはなかなか難しいのではと思います。また皆さんそれぞれの生活スタイルや仕事の内容(休憩時間が取りにくい、など)により、様々な制約が出るかと思います。
そのような状況を加味すると、毎食後は簡単に磨き、寝る前の歯磨きに一番時間をかけることで、理想のお口の状況を維持できるかと思います。
歯磨きする間隔が一番長いのは、寝る前の歯磨きから起床時の歯磨きの間ではないでしょうか?私たちが寝ている間、お口の中は温かく、かつ適度に湿度がある環境ですので、細菌類は増殖しやすい状況です。
3、歯磨きの仕方と歯磨きにかける時間の関係
歯ブラシの基本は、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境い目など、磨き残しをしやすい部位を中心に歯ブラシの毛先を当て、軽い力で小刻みに動かします。
歯磨きが短時間であればあるほど、当然、磨き残しがあります。しかし長く時間をかけるほど、歯や歯ぐきを痛めてしまう危険性が増加します。一方、個々のお口の状況に合わせた歯ブラシを使い、かつ効率よく歯磨きができるのであれば、歯磨きにあまり時間をかける必要もありません。
これらを総合すると、歯磨きの仕方と、歯磨きにかける時間それぞれについて検討し、個々にとってふさわしい歯磨きのスタイルが求められます。
1)虫歯のリスクが高い方
虫歯になりやすい方は、歯磨きの方法だけでなく、フッ化物を配合した歯磨き粉を虫歯になりやすい場所(例えば歯と歯の隣り合う面)に送り込むことが重要です。そのための歯ブラシには、の太さの異なる毛を2種類以上植毛した「複合植毛」という歯ブラシを選びましょう。
細い毛のたわみを太い毛がブロックするので、「コシのある」歯磨きが得られます。フッ化物を多く残すためにも、歯磨き粉もブラシの2/3くらいの長さ(およそ1g)を使い、磨いた後もうがいは少量の水で1~2回までに留めることも重要です。
2)歯周病リスクの高い方
歯周病は歯と歯ぐきの境い目から、歯周病菌が侵入することで起きます。そのため、歯磨きでは歯ぐきの境い目の磨き残しを少なくすることが重要です。
ブラシのヘッドは幅が広いものを選び、毛はやや太めのものを選びましょう。歯磨きにかける時間もできるだけ長い時間が必要です。ただし、歯ブラシを動かす幅(ストローク)が大きくなると歯磨きの効率が下がりますので、ストロークは大きくしないようにしましょう。
3)歯磨きの力が強い方
しっかりゴシゴシ磨くことによりしっかり汚れが落ちるかのように思っている方も多くみられます。しかし、この磨き方で歯の汚れは思ったほど取れるわけではなく、歯ぐきが下がる(歯肉退縮)、歯の表面が削れるなどのデメリットのほうが多い磨き方です。
このような方には太く硬い毛のブラシは避けたほうがよく、ペンを持つように歯ブラシを持つことで、力を軽減することができます。
4、自分にとってふさわしい歯ブラシ、磨き方とは
ドラッグストアやスーパーの口腔ケアコーナーを見ると、歯ブラシが多数揃えられています。ヘッドの大きいものや小さいもの、毛が太いものや細いもの、毛の量も様々です。持つところも子供が持ちやすい形状、手足に障害がある方でも簡単に扱える形状など、非常に多くの種類があり、どれを使うべきか悩むかと思います。
歯科医師、歯科衛生士に自分の歯磨きの仕方をチェックしてもらい、歯磨きの時間などを相談して、自分にふさわしい歯ブラシを処方してもらいましょう。
参考文献
篠原弓月,他. これだけは押さえたい 口腔ケアの基本スキル(第1回) なぜ口腔ケアが大切なのか. おはよう21 31巻1号, Page46-47,2019.
船原まどか、他.ブラッシング後の唾液中細菌数の推移 清拭と含嗽の効果について. 日本歯科衛生学会雑誌 14巻2号, Page67-72,2020.